2008/12/31

ダメ人間のサーキットレッスン体験記その3

次にサーキットを4つのエリアに分けたセクション別攻略。
セクション中の要所にパイロンが置かれている。
そのパイロンの意味を考えながら1つのセクションを攻略する事に集中。
コース外から見ている講師が一人ずつに無線で問題点を指摘する。
各人が全開でセクションを抜ける度に恐ろしく的確な指示が講師から飛ぶ。
そして各人はそこから自分の課題を見つけ出すのだ。

パイロンの位置に関する明確な説明はされない。
何故そこにパイロンが置かれているか、
そのパイロンは何の目印なのかを自分で考えるという事だ。
今思えばそれはコーナーの頂点(クリップポイント)であったり、
ハンドルを切って曲がる姿勢を作り始めるポイントであったり、
ブレーキを踏み始めるポイントや通るべきラインであったり。

明確な説明をしないのには理由がある。
シチュエーションが変わっても、
つまりそのパイロンを取り去っても、
あるいはこことは違う別のサーキットを走ったとしても、
同じ目的で目印をバーチャルに「自分で置ける」様にするためだ。
「この目印はこういう理由なんですよ」と説明されてしまうと、
その目印が持つ重要性、若しくはありがたみを実感できない。
その結果自分で能動的に目印を置く事が出来なくなるのだろう。

複数のコーナーを集中的に攻めるこのセクション別攻略で、
先程から感じ始めていた迷いはさらに加速してゆく。
「そのコーナーを曲がれる速度までブレーキやり切りましょう。」
「曲がっている間のハンドル操舵角と速度は一定でいましょう。」
「コーナーの頂点を過ぎたらハンドル操舵角の戻りに合わせて加速。」
これが今までの自分の感覚である。だが講師の指摘は、
「ブレーキの踏み始め、リリースが早すぎる。」
「フロントタイヤの荷重が抜けてアンダーステアになっている。」
「クルマが曲がる姿勢を作れていない。ロールをキープできていない。」

曲がり始める前にブレーキを終わらせてはダメなのか?
曲がっている間は操舵角一定アクセルキープではダメなのか?
クルマの曲がる姿勢って何だ?ロールって少ない方が良いんじゃないの?
。。。何だか自分の中で意識改革が必要だなぁと思いつつ昼食休憩へ。

レストランにて講師を囲みながらの昼食。ここぞとばかりに色々質問。
「コーナリング中もブレーキを引きずってフロントに荷重をかける。」
「グリップ全体が減速に使われている内から曲がるグリップにふりわける。」
「クルマはロールしなければ曲がらない。曲がり始める前にロールさせる。」
「ロールをキープしていればゼロからロールさせるより楽に曲がれる。」
今までの感覚では「クルマの挙動をなるべく乱さない」という受動的アプローチ。
今行うべき作業は「クルマの姿勢を積極的に変えよう」という能動的アプローチ。
。。。そうか。クルマを思うままコントロールするためアクティブな操作か。
何となく、何となくではあるが、やるべき事はわかった気がする。

コースに戻り、残りのセクション攻略を終える。
参加者一台ずつ3ラップのタイム計測を行い、休憩を挟む。
そこからは先程のパイロンを取り払ってフリー走行。
「パイロンの意味が分かった気がしていただけ」である事を如実に体感する。
パイロンが無いと、どのタイミングで何をすればよいのか分からない。
さらに講師から教わったアクティブな操作が全く出来ない。
頭では分かっているが体がうまいこと動かず、操縦に反映されない。
クルマは極限に攻めた領域、かつ同時にやるべき事が多すぎて手に負えない。
タダでさえ根っからのシングルタスクな自分である。
「嗚呼、もう、ワケわかんねぇ!」状態に陥っていた。

ここに来て、このタイミングで、本人運転、講師逆同乗による全開走行。
「ステア切り遅れ!姿勢作れてないよホラァ!」
「アンダーステア出てる!それじゃクルマ曲がっていかないよ!」
「もっとフロント潰して!フロントタイヤに仕事させなきゃ!」
「次のコーナーまでロール維持して!姿勢まっすぐになっちゃダメ!」
「ツッコミすぎー!こんなスピードじゃオレでも曲がれないよ!」
「一つ一つのアクションがブツ切りだよ!同時に!流れるように!」
「あぁ!だからってブレーキとハンドル同時にやってどうするの!」
。。。笑うしかない。いや、笑いもこみ上げてこない。

自分のクルマにはDSCという横滑り防止・姿勢制御装置がついている。
アンダーステアが出ようが、ツッコミ過ぎてようが、
その電子制御のおかげでコースに居られたのだろう。
もしついていなければ一瞬でコースアウトし壁に激突していただろう。
この瞬間理解した。朝早くから行っている今日の一連の行為は、
「クルマの持つ能力の限界領域でのコントロールが出来ること」
を求められているという事を。気づくの遅!そして出来ませんでしたよ。

一連の課題を終え、各人集合の上最終ブリーフィング。
各人が本日見つけた課題を再確認し、講師からアドバイスを受ける。
自分の受けた主たるアドバイスはこうだ。

「今日の結果でヘコまないでね。」
「モータースポーツを嫌いにならないでね。」

。。。屈辱である。


以降、「ダメ人間のサーキットレッスン体験記総括」に続く。

2008/12/28

ダメ人間のサーキットレッスン体験記その2

当日はサーキット場一番乗り。
今回は何と定員15人のレッスンに参加者5人。濃い内容が更に濃ゆく。
ゼッケンと計測器を受取りボディ左右に張り付ける。
見よう見まねでライト類にバッテンテーピング。

そのうち別の参加者が続々到着。。。うわぁ、みなさんスゴイ装備。
タイヤ・ホイールは別物。シートは当然のようにフルバケット。
うぉ、レーシングスーツに着替えてシューズも専用のものだ。
早くも場違い感が漂い始めた。オレここに居てもいいんですかね。

時間だ。講師を中心にブリーフィング。本日の内容を確認する。
参加者のレベルの違いを考慮し、各々のニーズに沿ったレッスン。
そして兎にも角にもクルマ・自分が無事に帰れるという目標を心に誓う。

ブリーフィング終了後受け取った無線を装着し、全車連なってサーキットイン。
講師のクルマを先頭に追走し、ゆっくりと走行ラインを確認する。
そして講師がピットに戻り、各々のペースで周回走行を開始する。
まずは自分なりの悪癖だらけ走法でフリーで走ってみるのだ。
そこから講師の指導でどう変わってゆくかを体感する起点を作る。

初心者である自分は早い段階でピットに戻り、講師の同乗走行を開始する。
この同乗走行が凄い。まるでクルマが別物になったかのような動きをする。
運転する人間が変わればこうも変わるものか。まるで水を得た魚のよう。
道具とは使い手によってその処理能力・出現効果がまるで変わるもの。
やはりクルマは限り無く「道具」に近い存在なのだという事を再確認した。

フリー走行に戻り、自分なりに走っていた内容から、
少しづつではあるが、講師の走りに内容を変えて行く。
自分の走りと講師の走りのあまりの違いに眩暈を覚える。
全てが違うのだが、自分の感じた決定的な違いはその速度域だ。
あれほどのスピードを出すものなのか。というかアクセル踏むのか。
自分が限界と感じる付近まで速度域を上げてみる。

ここら辺から、自分の中に少しだけ違和感を感じ出していた。
自分が求めていた内容は、このサーキットを自在に気持良く走る事。
先程から行っている行為は、このサーキットをコンマ1秒でも速く走る行為。
方向性が違うと言うのか、手段は一緒だが目的が違うと言えば良いのか、
初めてヘルメットを被ってクルマを運転する閉塞感も手伝い、
違和感はますます強くなっていった。

ただ、今冷静になって考えてみるに、
意のままに走るのもコンマ1秒を削る走りも、
どちらもクルマを確実にコントロールする事が求められるのは事実。
突き詰めれば方向性も目的もその一点に帰結する気がする。
私はこれ以前の問題、土俵にすら上がっていなかったという事だ。
はぁ。。。情けないったらありゃしない。

「タイヤが温まったところでタイヤの空気圧を調整してください。」

しばらくのフリー走行後ピットに戻ってからの指示がこれ。
えっ。。。エアゲージなんて持ってないよぅ。
こういう場に来る者の当然のたしなみという事か。
親切な受講者の方がエアゲージを借してくれた。うぅ、優しいな。
加減速とコーナリング時に起こる強烈なGに全身で耐える辛さは凄まじい。
クッション量が少なく、左右のサポートがしっかりとした、
皆さんのようなフルバケットタイプのシートが必需品という事か。
ロールを押える締め上げたサス、ガツンと効くブレーキも同様。
そうでなければタイムを削るように攻める走りは出来ないよな。

自分が求めていた内容と違うとはいえ、
サーキットでコンマ1秒を削る技術を教わる機会など滅多に無い。
気持を切替え、与えられた課題を攻略する事に集中すべきだ。
手持ちのリソースで出し切れる最良の結果を出すのだ。
ぬぉぉ。。。って、何だか仕事してるみたいだな。
と言うよりもそれなりのマシンなもんでマイペースに走らしてもらいます!
。。。と開き直れる強さが無いだけのヘタレなだけかも知れません、はい。

だが、実は違和感と同時にさらに迷いも感じ始めていた。
何と、以前受けたドライバートレーニング時に教わったドライビングの原則と、
現在講師から無線越しに教わっている内容に真逆のものが存在するのだ。


以降、「ダメ人間のサーキットレッスン体験記その3」に続く。

ダメ人間のサーキットレッスン体験記その1

以前カートでサーキットを走った体験が存外に面白く、
またやってみたいと常日頃から思っていた。
実はあのカート体験から更に薄々考えていた事がある。

「サーキットを思いきり走ってみたい。それも自分のクルマで。」

そう思い始めてからネットで情報を漁り始めた。
グローブ・ヘルメット着用は当然として、
ブレーキパッドは効きの良いものに代えた方が良いとか、
簡単な工具を持ち込んである程度自分でクルマをセッティングしなきゃとか、
どうも敷居の高そうな話がワラワラとヒットする。
そりゃそうだ。。。やはりおいそれと出来る事ではなさそうだ。

と思っていた矢先である。
千葉にあるサーキット場が主催するレッスンを見つけた。
開催事項を良く読んでみると、いろいろ魅力的な事が書いてある。

・クルマはノーマル車両でも可!
・プロのレーシングドライバーが同乗&逆同乗まで!
・全くの初心者から中級者に最適な密度の濃い内容!

全くの初心者でも構いませんですか。うーん、これは良いかも。
持ち物もメットとグローブに簡単な工具とテーピングだけでよいですか。
さらにプロが自分のクルマで限界走行をしてくれるですか。凄いなぁ。
しかもそのプロって人がスゴい。こんな人が講師とは。。。


はぅ!。。。気がついたら申し込んでしまっていた。


以降、「ダメ人間のサーキットレッスン体験記その2」に続く。

2008/12/26

2008/12/24のダメ人間模様

「いい事なんか、なーんもねーよ。」

クリスマス・イブの朝、出勤途中の出来事。
冷えた早朝、足早に歩を進める自分の更に先をゆく、
雪の様な純白のコートを身に纏った小柄な女性。
その足元からコロコロと転がり落ちた白く丸い物体。

これはあの白いコートのボタンではないか?

遠目にもわかる純白のそれ。細かい仕事を施されたボタン。
何とコートと同じ生地で丁寧にコーティングされている。
これと同じものを取り寄せるとなれば、さぞ骨の折れる事だろう。

気づいていないのか、それとも先を急ぐためか、
はっきりと「それ」と分かるのに、誰も拾わない。
基本設計は「いいヒト」であるワタクシは、
何の躊躇も無くそれを拾い上げ、純白の女性に声を掛ける。

オレ:「あの。。。」
純白:「。。。はぃ」(メチャ訝し気)
オレ:「こちら(ボタン)を落されたみたいなのですが。。。」
純白:「え?あ、まぁ。。。すみません。ありがとうございます。」

クリスマス・イブの夜、帰宅途中の出来事。
相変わらず寿司詰めという表現がふさわしいダタ混みの地下鉄。
特に列車の出口付近は我先に降りたいとギラギラした連中が集まる。
ひどいものだ。今日は運悪く出口付近に追いやられてしまった。
こら、オレの肩でメールを打つな。耳元で雑誌をめくるな。

そんな最中、最寄りまであとひと駅というところでそれは起きた。
ギュウギュウ詰めの中、自分の隣で立ち続けていた初老の女性。
いきなり「貧血です。。。」の声と共にその場に崩れ落ちそうに。
そのすぐ前にいた若い女性が驚く。「だ、大丈夫ですか?」
年の瀬とは言えこんな状況だ。具合も悪くなるさ。
若干白々しいが、「どうされました?」と声を掛けるオレ。

若女:「この方が、具合が悪くなったみたいで。。。」
老女:「貧血なんです。降りたい。。。」
オレ:「では次の駅で降りましょう。肩をお貸しします。」
老女:「すわりたい。。。」
若女:「えっと。。。わたし。。。」
オレ:「ワタクシ次の駅が最寄りですから、あとはお任せください。」
若女:「あぁ、すみません。えっと。。。すみません。。。」

基本設計が俄然「いいヒト」であるワタクシは、
若い女性の目的地が次の駅でない事を敏感に察知。
到着と同時に後の事を引き受け、老女をベンチに誘導。

オレ:「具合如何ですか?駅員さんお呼びしましょうか?」
若女:「大丈夫です。暫く休めば大丈夫。すぐ楽になります。」
オレ:「そうですか。それではワタクシここで失礼します。」
若女:「お手数お掛けしました。ご親切にありがとうございました。」
オレ:「お大事になさってください。」

基本設計が間違い無く「いいヒト」なワタクシである。
もちろん駅員に声を掛けないはずは無い。
寒い駅のホームで休んだだけで体力が回復するとは思えないからだ。

オレ:「本人は大丈夫と言ってましたが、それとなく様子を見てあげてください。」
駅員:「わかりました。ご連絡ありがとうございます。」


一日で二度もいい事をした。こんな事もあるものなんだな。
明日はクリスマスだ。今日はイブだ。奇跡には事欠かないさ。
カミサマもきっと見ているさ。ボクにもきっといい事あるよ。
そうさ。きっとそうに違いないとも。



。。。なーんもねーよ。



明日、良い天気になりますように。