2008/05/18

いつぞやのダメ人間模様(2008/03)

「深夜寒空の元、三人がかりの職務質問を受ける(ボディチェック付き)」


映画は真夜中の映画館で見るに限る。
客のほとんどいない快適な環境で当日封切りの映画を見終え、
例によって例のごとく映画館を後にしたのが午前四時前の真夜中。
関西風の出汁で食べるうどんを24時間営業で出す店を知っている。
かけうどんは関西風の出汁で頂くのが旨い。ちょうど小腹も空いている。

そのうどん屋は映画館のある台場からは少し遠いのだが、
車数の少ない深夜でナビを頼りに最短ルートを辿れば時間もかかるまい。
映画館の駐車場からクルマを出して湾岸道路に入り、
すぐの角を曲がってハザードを焚きつつ停車させた。
純正のナビは走行中に操作が出来ない仕掛けが施されている。
安全のためとは言え不便極まり無い。

うどん屋の名前をたよりに行き先の検索をしていると、
激しく揺れ動く赤い閃光がルームミラーに写った。
愛車に装着されたレーダー探知機がそれと同時にうなりを上げる。
「取締り注意!取締り注意!」※1
国家権力の象徴である黒と白のツートンカラーに赤いパトライトが、
黄色く点滅する自車のすぐ後ろにものすごい勢いで付いた。
それと同時にものすごい勢いで飛び出して来る制服を着た三人の人影。

「何?オレ何かした?」

制服の持つ凄みを効かせ小走りに近づいて来る彼らを目にし、
そう思ってしまった時点で私の負けである。
(普通は「何かあったのかな?」と思うのが自然なのだろう。)
探知機のディスプレイが仕込まれている灰皿のフタを閉め、
争うつもりは無いという意志表示を込めてウィンドウを降ろす。
この時間パトカーに乗って巡回している警察官は、
大概茨城なまりの残るすこし声の高い男と相場が決まっている。
(我ながらものすごい偏見だ。負け惜しみとも言う。)

警A:「どぉしましたぁ?」(やっぱり声が高い)
オレ:「いやぁうどん屋でも行こうかなとナビいじってた所ですぅ。」
警B:「でもずいぶん遅い時間ですよねぇ。今まではどちらに?」(もっと声が高い)
オレ:「そ、そこの映画館でレイトショーを見てたんです。」
警B:「こんな遅くに映画なんてやってるんですかぁ?」
オレ:「えぇ。半券ありますよ。その映画をみたためにうどん屋でもと。」

「ずいぶん遅い時間」という言葉がプレッシャーとなる。
この時間にクルマを停めて車内でカサコソやっている自分は、
何か怪しいと疑われて然りだ。常識的に考えても。端目から見ても。
自分がいかにこの未明の疑義を晴らすため焦りの言動を興じていたか、
深夜映画の半券を警察官に見せるところなどから伝わるだろうか。
映画とうどんとの因果関係も支離滅裂だ。
うどんを食べに行くのはお腹が空いたためであって映画を見たためではない。
何もしていないので動揺する事など皆無であるはずなのに。
なかなか立ち去ろうとしない彼らに思い切って尋ねる。

オレ:「な、何かあったんですか?」
警B:「いや、そういうわけではないんですがねぇ。」
警A:「。。。ナイフ持ってたりしませんよねぇ?」
オレ:「ナイフ?ナイフってあのナイフ?」(他にどんなナイフがあるというのだ)
警A:「えぇ。ちょっとクルマの中調べさせてもらってもいいですかねぇ?」
オレ:「あぁ、いや、いいですけどナイフなんてありませんよ?」
警A:「ま、形だけですから。トランク開けてもらえます?」

車内の捜査に形だけもへったくれもあるものか。
普段からトランクへ入れる程の荷物などほとんどあったためしが無く、
たまの買い物等で大きい荷物となる場合も出し入れは常に独りで行うため、
トランクは必ず外から開けていた。つまり車内からの開け方を知らない。
このクルマに乗り換えて車内からトランクを開けた事が一度も無いのだから。
今思えばトランクを開けるためにここで降りたのがまずかった。
一言も発さず傍らに待機していた警察官Cがこの隙を逃がすはずも無かった。

警A:「。。。大丈夫そうですねぇ。不審なモノとかはありませんね。」
オレ:「ありませんありません。不審なモノ。」(いっぱいいっぱいだオレ)
警B:「これ BMW ですよねぇ。けっこうスルんでしょう?」
オレ:「いやいや速くないですそんな。BMWで一番ちっこいやつなので。」
警B:「速い?いやぁ、値段の話ですよ?」
オレ:「はぇ?いやいや高くないですそんな。中古だし。一番ちっこいし。」
警A:「ホントは速いんでしょ?確か3Lのエンジン積んでる奴でしょこれ?」(バレてる)
オレ:「いやいや速くないですホント。一番ちっこいんで。」(一番ちっこいを必死に連呼)

助手席に同乗していた友人に後から聞いたのだが、
このやりとりを行っている間警察官Cは車内に乗り込み、
グローブボックスからサイドボックスからドアポケットから全てを開き、
隅々まで隈無く懐中電灯を当てつつ調べていたそうだ。
そして彼はとうとう備え付け灰皿のフタを徐に開き、
「取締り注意!取締り注意!」※1
と捜査をしている間中ずっと金切り声を上げていた装置にたどり着く。
そして運転席に戻って事の次第を眼の当たりにした自分に、
取締りしている相手に取締り注意と叫び続ける物体を指さし尋ねた。

警C:「あのぉ。。。これ何ですかねぇ?レーダー探知機ですか?」
オレ:「あらぁ、なんだっけそれ?わかりません。」(わからないはずが無かろう)
警C:「これどう見てもレーダー探知機ですよ?自分で付けたんですか?」
オレ:「いやぁ、よくわからないです。初めから付いてたので。」(苦しいぞ)
警C:「これ灰皿に埋まってますよね。オプションか何かで付けられるんですか?」
警B:「これもけっこうスルんじゃないですか?」(何でも値段が気になるのか)
オレ:「それもよくわからないです。中古だったので。」(たのむもう聞くな)
警A:「こういうのどっかで売ってるんですか?どんくらい効くんですか?」

鬼の首を取った様な質問に攻防を繰り広げる空疎な時間を暫く過ごし、
納車当初から装着されていたので良く分からないものなのだが、
取り外すとなると輸入車のため工賃がベラボーに高いので、
運転に支障は無いからそのままにしているという理由で納得させた。
今までの一部始終をパトカーの中で待機する警察官Dが見ている事は知っていた。
きっと無線でナンバーを照合していたのだろう。その無線を拾い続けていたのだ。

その後免許証のチェックを受け、ポケットの中身を全て出させられ、
最後はバンザイをさせられ全身澱み無くベタベタと触られた。
ドラマや映画でしか見た事の無いボディチェックを初めて見た。っつかされた。
彼らの最後の言葉は「たまにいるんですよ。ナイフ持ったヒト。」

自分は彼らの眼にナイフを持ち歩く様な人物に映ったのだろうか。
自分は彼らの眼にものすごく挙動不審な人物に映ったのだろうか。
自分は彼らの眼にものすごく悪い事してそうに映ったのだろうか。
そんな自分にものすごく悲しくなった出来事であった。
明日は今日よりもう少し優しい自分になっていますように。国家権力マンセー。

※1
以下の意。誰が何と言おうと以下の意。
「近くで取締りをやってそうな緊急車両がいるっぽいので邪魔にならぬ様注意せよ!」

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